公務員として働いていた頃、さまざまな年代・職種の方と仕事をする中で、ITに対する得意・不得意の差を感じる場面が数多くありました。最初は単純に「パソコン操作が苦手な人がいるのだろう」という程度に考えていました。しかし、実際に話を聞いてみると、問題は操作能力そのものではありませんでした。多くの方は、**「何が分からないのか、そもそも分からない」**という状態だったのです。
想像していた「格差」と、実際は違った
IT格差というと、「若い人はできて、高齢の人はできない」というイメージを持たれがちです。しかし現場で感じたのは、少し違う実態でした。大きかったのは、「知識の差」ではなく、**「前提の差」**だったのです。
例えば、家にパソコンがあったか、誰かに教えてもらえる環境があったか、仕事で日常的にITを使っていたか。この違いだけで、エラーに対する耐性、専門用語への抵抗感、試行錯誤できるかどうかが大きく変わってきます。つまり本当の分かれ目は「できる・できない」ではなく、「慣れているかどうか」だったということです。
エピソード①:「保存したはずの資料がない」
ある時、資料作成を担当していた方から、「昨日作ったファイルがなくなりました」という相談を受けたことがあります。確認してみると、ファイル自体が消えたわけではなく、単に保存場所が分からなくなっていただけでした。
その方は「保存ボタンを押したから大丈夫」と思っていましたが、どこに保存されたのか、ファイル名は何なのか、後からどう探すのか、という部分は意識していませんでした。これは操作ミスというより、「保存=どこかに残る」というイメージしか持っておらず、「探すためのルール」自体を持っていなかったことが原因でした。この経験から、ITを教える時は操作方法そのものだけでなく、「その操作をすると、裏側で何が起きているのか」を伝えることが大切だと感じるようになりました。
エピソード②:「メールを送ったのに届かない」
メールに関しても、似たような経験がありました。「メールを送ったのに相手に届いていない」という相談です。
確認してみると、送信済みフォルダにはきちんと入っているものの、添付ファイルの容量オーバー、宛先アドレスの入力ミス、迷惑メールフォルダへの振り分けなど、考えられる原因はいくつもありました。しかし相談してきた方にとっては、「送信ボタンを押した=相手に届いた」という認識だったのです。ここにも、システムの実際の仕組みと、利用者が持っているイメージとの間に、静かなギャップがありました。
エピソード③:専門用語そのものが壁になっていた
特に大きいと感じたのは、IT用語そのものが壁になっているケースです。「ブラウザを開いてください」「アカウントを確認してください」「クラウドに保存されています」。ITに慣れている人にとっては当たり前の言葉でも、初めて聞く人にとっては、この一言だけで思考が止まってしまいます。
実際には、ブラウザ=インターネットを見るためのアプリ、アカウント=サービスを使うための自分専用の入口、クラウド=インターネット上にデータを置いて使う仕組み、と言い換えるだけで、理解度は大きく変わります。教える側は「簡単な説明」のつもりでも、受け取る側には前提が抜けている、というすれ違いは、思っている以上によく起こります。
若い世代にも、別の形の格差がある
一方で、若い世代にも別の種類の格差があります。スマホの操作には慣れていても、パソコン操作には弱い。エラーの原因を考えず、とりあえず“やり直し”で解決しようとする。アカウントやデータの管理を、仕組みではなく感覚で扱ってしまう。つまり、「使える」ことと「理解している」ことは、必ずしもイコールではないということです。