「使うな」だけでは、止まらない
生成AIのルールとして、「業務でのAIの利用は禁止」とだけ決めている組織があります。しかし、現場では、個人のスマホやパソコンで、AIを使い続けている人が少なくありません。
なぜなら、AIは、使えば明らかに便利だからです。メールの下書き、文章の要約、資料の構成案。便利さを知った人にとって、「禁止」の一言だけでは、使うのをやめる理由になりません。
その結果、起きるのがシャドーAI、つまり、会社が把握していないAIの利用です。業務の文章を、そのまま個人のAIチャットに貼り、自覚のないまま、情報を社外に渡してしまう。このケースを、実際に多く見てきました。シャドーAIの意味は、シャドーAIとはで解説しています。
問題は、「何ならいいか」が決まっていないこと
AIガバナンスの相談を受けていて感じるのは、「使うな」というルールはあっても、「何ならいいか」が決まっていない組織が多いということです。
使っていい場面も、入力していい情報も、迷った時に誰に聞けばいいかも分からない。そうなると、現場は、自分の判断で使うか、隠れて使うか、どちらかになります。
ですから、最初に取り組むべきなのは、細かい規程を作ることではなく、次の2つの線引きです。
- 入力してはいけない情報は、何か
- AIの回答を、そのまま使ってはいけない業務は、何か
この2つが決まれば、現場は動き出せます。AIガバナンスとはの考え方も、同じです。
対策の4ステップ
ステップ① 責めずに、実態を聞く
まず、今、どんなAIを、どんな場面で使っているかを、聞き取ります。ここで大切なのは、責めないことです。「使っている人を、見つけて罰する」姿勢だと、本当のことを話してくれなくなります。
聞くことは、次の3つで十分です。
- どのAIサービスを使っているか
- どんな業務で、どんな内容を入力しているか
- 使ってみて、便利だったこと・困ったこと
実態が分かれば、「どこに、リスクがあるか」と「何が、現場のニーズか」の、両方が見えてきます。
ステップ② 入力の線引きを、3区分で決める
次の3つに分けて、具体的に決めます。
| 区分 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 入力禁止 | どんな理由でも入れない | 個人情報、認証情報、取引先から預かった機密、未公開の経営情報 |
| 条件付き | 加工すれば入力できる | 氏名・社名を仮名に置き換えた文章、IPアドレスを伏せたログ |
| 入力可 | 入れても問題ない | すでに公開されている情報、一般的な知識 |
具体例を添えると、現場が、判断しやすくなります。この3区分を、そのまま使える形にしたものが、生成AI利用ルールのひな形です。
ステップ③ 使ってよい道具と、相談窓口を用意する
「禁止」だけでなく、代わりに使える道具を示すことが、守られるルールにするための鍵です。
- 組織として使ってよいAIサービスを、決める(法人向けの契約など)
- 迷った時の相談窓口(担当者・連絡先)を、明確にする
- 新しいサービスを使いたい時の、申請の手順を決める
「使いたいのに、使える道具がない」状況が、シャドーAIを生みます。使える道具があり、相談しやすければ、隠れて使う理由が減ります。
ステップ④ 誤入力した時の手順と、見直しの時期を決める
どんなに気をつけても、間違って入力してしまうことはあります。その時に、隠さず、すぐ報告できる手順を、用意しておきます。
- 入力した内容と日時を、記録する
- すぐに、担当者へ報告する(自分で判断して、隠さない)
- サービス側の履歴の削除や、設定を確認する
また、AIサービスの機能や規約は、頻繁に変わります。半年に1回程度(目安)、ルールを見直す時期も、決めておきます。
シャドーAIが起きやすい場面
実際に、情報が出やすいのは、次のような場面です。自分の職場に当てはまるものがないか、確認してみてください。
| 場面 | 貼られやすい内容 | 起きやすいリスク |
|---|---|---|
| 議事録・メモの整理 | 参加者名、社内の議論の内容 | 社外秘や、人事に関わる情報が混ざる |
| メールの下書き・添削 | 取引先の名前、連絡先、金額 | 取引先の情報が、社外に出る |
| 資料・文書の要約 | 契約書、社内資料の全文 | 機密表示のある文書を、そのまま貼ってしまう |
| エラーログ・設定の相談 | IPアドレス、社内のURL、認証情報 | システムの構成が分かる情報が出る |
| 翻訳 | 取引先との文書 | 守秘義務のある内容が、外部に渡る |
どれも、悪意があるわけではなく、便利に使おうとした結果です。だからこそ、禁止するだけでなく、安全な使い方を示すことが、効果を持ちます。